セーラー服の彼女1



可愛い彼女が自分の部屋で寛いでいる。
床に置いたクッションを枕に、肘を突いて雑誌を捲りながら足はパタパタと動かして。
制服のスカートは短くて、すんなり伸びた脚が眩しい。
普通なら生唾飲み込む光景だろう。普通なら。

「……泉、パンツ見えてるよパンツ」
「あ、わりぃ」
泉は、いつのまにかお尻の辺まで捲れあがったスカートをぺっと片手で適当に直すと、また平然と雑誌に顔を戻した。
これだよ。
この色気のなさは何だ。
例えて言うなら、休日にオッサンがラクダシャツ(今時そんなの着ないか?)にももひきって格好で、縁側にごろーっと横になってて、そんで股をぼりぼりかいてるみたいな……そんな脱力感。

「ケーキ持ってきたけど」
「食う食う! あっこれ駅前の店の?」
「そう。好きな方食べていいよ」
「やったー! じゃ、モンブランちょうだい」
ケーキ、という言葉に反応した泉は、がばっと身を起こしてローテーブルに置いたお盆から皿を取り、「いただきます」と勢い良く食べ始めた。
あぐらをかいて。
「……泉さあ、あぐらかくの止めない?」
口いっぱいにケーキを押し込んだ泉が、「何で?」と目で問う。
「パンツ見えそうなんですけど」
というか見えてる? オレが身体の位置ずらしたら、思いっきり見えてんじゃないの?
「正座とは言わないけどさあ、せめて横すわりとか」
「やだ。あれ、すっげー足辛い」
「そなの?」
「そう。足の付け根とか膝とかビキビキいう」
でも女の子ってよくその座り方してねえ? って思ったけど、言わないでおいた。確かに無理な姿勢だけど、他の子は平気なんだろうか。

「ごちそーさまー、うまかったー!」
オレが一口二口食ってる間に食べ終えた泉は、満足そうに伸びをしてから、あぐらを崩して片膝を立てた。
「だから見えるっての!」
何でそう足に落ち着きがないんだよ! ちょっとは気にしろ!
「うっせえなあー。穿いてんだから別にいいだろ」
「んなわけあるか!」
何それ何それ、どういう理屈だよ。ていうか普通さあ、彼氏に「パンツ見えてる」なんて言われたら、慌てて隠すとか恥ずかしそうに顔伏せるとか色々あるだろ!

愕然とするオレをよそに、泉はまた寝転んで雑誌に手を伸ばした。
うん、太腿丸見え。ついでに脇腹も見えたよ今。
「泉、ベッド座っていいから」
「え? いいよ」
「いやいやそう言わず」
脇に手を入れてむりやり起こし、子どもを運ぶみたいにしてベッドに腰掛けさせる。
「脚閉じる」
「はあ?」
乱れたスカートの裾を直し、ちょっと開いていた膝を両手でくっつけ、ついでに踵もつけてやって、隣に座った。
「何なんだよもー、浜田だって足開いてるだろ」
「オレはズボンなの! 男なの!」
ぴったり膝つけてたらオカマ疑惑が浮上する。
「何それ! 人に強制するなら自分で率先してやってみろよ!」
言うや否や、泉はぐいぐいとオレの脚を掴んだ。
「オレはいいって」
「自分がやりたくない事を人にやらせるつもりか?」
「えー……」
「えーじゃない!」
そういう話だっけ……?

5分経過。
ベッドに仲良く並んで腰掛けたオレ達は、そろって膝をつけてお行儀良くしている。
きっつー。太腿がぶるぶるしてるんですけど!
ちらりと泉を見る。
あんなに文句を言っていたわりに、泉は涼しい顔で膝に置いた雑誌を読んでいた。
脚はぴったり閉じたまま、背筋もきちんと伸びていて、何だかちょっとお嬢様風で新鮮だ。
「……いずみー」
「何」
「あのー」
「まだ10分も経ってねえけど」
「えーと」
「何だよ」
「そのー」
「だから何」
辛い。辛すぎる。なんだこの筋トレは。そりゃ泉も嫌がるよなあ…。にっこり笑顔で座ってるお姉さんたちって凄いなあ。
ていうか。
…………限界。絶対明日筋肉痛。
横に向き直って、深々と頭を下げた。
「すみませんでした」






泉は機嫌よく転がって雑誌を読んでいる。時折位置を変えて、そのたびにスカートが捲くれて足の付け根まであらわになるのを、ベッドにもたれて床に座るオレが直す。
泉の形のいいお尻とか脚とか見えるのは勿論嫌じゃないんだけど。嬉しいんだけど。
でも、外でもそんななの?
どうでもいい奴らに惜しげもなく脚晒しちゃってんの? あまつさえ可愛い下着まで?

「なあ泉、うちではいいけどさあ、外ではやっぱりスカート気にしようよ」
「は? 何言ってんの」
「何って」
むくりと起き上がった泉は、オレの近くまで寄ってきてあぐらをかいた。
「いっつもこんなだらしなくしてるわけないだろ」
……じゃあこの奔放さは一体。
「外ではあぐらかいたりしてないの? 脚丸出しにしてない? 誰かにパンツ見られたりしてない?」
「あったりまえだろ!」
そうかなあ……。
「オレといる時だけ?」
「そうだよ、自分の部屋か浜田と二人きりの時だけ。居間とかだと父さん怒るからさあ」
「本当?」
「本当だって」
泉はそう言って、オレの顔を覗き込んできた。さっきから煩いオレにむっとしているのか、少しだけ口を尖らせている。
これで無意識なんだから性質が悪い。
「……じゃあ、まあ、いいか……」
「だろ?」
そうか? それでいいのか? とは思いつつ、オレだけ特別ってことかなとか都合よく解釈してみたりして。
まあ本当はもうちょっと身だしなみというものをね、考えても欲しいわけなんだけども。
一緒にいて安心しきってくれてるならいいか、って諦める事にした。

「泉、紅茶のお代わりいる?」
「いる」
疑問を残しつつもポットを取って、少し濃くなってしまった紅茶を注ぐ。ミルク多めにして泉に渡せば、一口飲んでにっこりと笑った。
「美味い。浜田ってお茶淹れるの上手いよな」
「そう?」
「うん、オレ、浜田のが一番好き」

くっ……。
可愛い顔しやがって……!


2006/10/22
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