ふたりで猫風邪編



このふざけた耳としっぽを帽子と上着で誤魔化せば、普通に過ごす事もできるのではないか。なにせこの風邪は、寒気はするものの、熱でうなされたり鼻が詰まって苦しかったり喉がひりひりと痛んだりすることがない。
ということは、家に閉じこもっていないで野球をすることだってできるはずだ。 
そんな淡い期待を抱いていたのだったが、そう簡単にはいかなかった。

ぴったりとくっついていないと駄目なのだ。普段元気な時にはほとんど感じたことのないような、焦りにも似た不安感が体を覆っていて、それは人の体温でないと消せない。指先が触れればほんのわずか、隣に寄り添えばもう少し、抱き込まれるとやっと落ち着く。
けれどそんなのは自分じゃないみたいで嫌だと、もっと近づきたい隙間がないくらいに近くと思う気持ちを抑えてはみるものの、言い様のない寂しさに襲われて一歩踏み出してしまう。

まして堪らないのは、くっつきたいいや駄目だと葛藤を繰り返す泉をあざ笑うかのように、忌々しいしっぽが勝手に動いて、やはり風邪を引いている浜田のしっぽにじゃれつくのだ。
浜田は浜田で、この寂しさを隠そうともしないから、ほわ、と触れた泉のしっぽに喜んで、茶色のしっぽをくるりと絡まらせる。そうしていつのまにか二人はぴったりとくっついて、泉は渋々ながらも、ああもっと早くこうすればよかったと目を閉じる。

そんなことを何度か繰り返し、今ではぎゅうぎゅうにくっついて、暖かい布団の中で風邪が治るのを待っていた。しっぽはやはり、くるりと絡まっている。勝手に動くのだから仕方がない。仕方がないのだが、ちょっと困る。
しっぽが絡まっているとそわそわして、不安とは違う落ち着かなさがあるのだった。もぞりと動いてはみるのだがしっぽは離れない。それどころかいっそうそわそわし出して、どうしようと浜田を見ると、同じように困った顔が見下ろしていた。

なんとなく唇をあわせてみると、ああ、と気付く。浜田も気付いたようだった。
つまりはそういうことだ。

2005/12/10
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