ストライクゾーン
「やっぱさあ、大きい目の子がいいよなあ」
昼休みの廊下、オレは去年のクラスメイトと話し込んでいた。階段の踊り場ですれ違って、よう久しぶり、おお元気か、なんて始まって、それからいつのまにか女の子のタイプの話になって。
「黒目がうるうるってしてて」
そいつが言う。
「上目遣いにじっと見られたらたまんないねえ」
なんて、実演してくれるものだから実に気持ちが悪い。
「そんでもって結構気が強かったりしたらヤバイ」
しかしあれだ。なんか覚えのある特徴だよな。
そう思って内心首を捻っていると、遠くから名前を呼ばれた。
「はーまーだー、次移動!」
振り返ると、元後輩が駆け寄ってくる。オレの隣に立つ見知らぬ男を見止めて、立ち止まってぺこんとおじぎをするのがさすが体育会系か。
「おー、すぐ行……泉、ちょっと」
手招きをして近くに寄せる。
「何?」
泉はかちりと視線を合わせてきた。身長差があるせいで、自然とオレを見上げる形となった泉は、つまり上目遣いってやつだ。
あ、わかった。
「こんなの?」
思わず隣を見遣る。
するとつられて泉も視線を移し、奴を見上げた。
数秒後。
「あああ〜〜」
オレよりもさらに背の高い元クラスメイトは、妙な声を上げて、何度も顎を擦った。
「あいつさあ、馬鹿だよなあ」
鼻歌でも歌いたい気分で頬杖を付く。向かいに座る泉は、オレの作ったチャーハンを食べる手を止めて、冷たい視線を向けてきた。
「は?」
返事も冷たい。
でも全然めげません。だってそんな顔も可愛いですから。
「昼間の奴」
「ああ、あの人か。何で?」
泉はスプーンを置く。どんなに態度が冷たかろうが、ちゃんと話を聞く体勢になってくれるのも良い所のひとつだ。
「あいつさ、泉が女の子だったらマジヤバかったって」
あの時の奴の顔を思い出す。いやいや男だしねえ違うだろつかまじありえないしとかなんとか言いながら、かなりうろたえてやがったその顔は、隠しようもないほど真っ赤だった。
「はあ?」
「男ってだけでさあ、ほんと馬鹿だよな」
こんなに可愛いのに。こんなにいいやつなのに。性別で諦めるにはもったいなさ過ぎる。
そういえば、あいつとは好みとか趣味が合うんで喋るようになったんだっけ。
わけわかんね、と呆れて食事を再開する泉を他所に、オレは優越感に浸っていた。
逃がした魚は大きかった、ってやつですよ。馬鹿め。
まあ最初からオレのものですけどね。