小春日和



珍しく晴れて太陽が覗いた昼休み、泉と二人で屋上に出た。
行きに買ったばかりの雑誌を泉も見たいと言うので、二人で並んで端と端を持つ。
「首痛い」
「だな」
初めはよかったけど、だんだん首が凝ってきてしまった。
「もちっといい体勢ないかな」
「反対側来る?」
「そだな」
右側に座っていた泉が左側に来て、再び読み始めた。
ところがすぐに、さっきとは逆側が痛くなる。また左右を入れ替えても、きっとすぐに痛くなるだろう。
仕方なしに一旦雑誌を脇に置いて、何かいい体勢はないかと二人で動き始めた。
「これはどうだ」
「うーんいまいち。こうは?」
「読めねえ」
もぞもぞもぞもぞと移動する事数分、結局、オレが泉を後ろから抱き抱えるような格好に落ち着く。
「おっ、これいいな」
「な。これがいいんじゃね?」
泉がオレを背もたれにして、ずるずる下に下がるといい具合に頭も邪魔にならない。泉の膝に雑誌を乗せれば丁度良く二人とも読めた。

風がちょっと冷たいけど、日差しが暖かいし、抱きこんだ泉の体温がほんのり伝わって、寒さはほとんど感じない。
気持ちいいな、もう少し引っ付いちゃおうかな、と思ったそのとき。クスクスと小さな笑い声が聞こえて、あ、と気づく。
ここ学校の屋上だよ。
そろそろと辺りを窺うと、昼休みの屋上にはぱらぱらと生徒がいた。何人かはオレ達に気がついて、何やってんだっていう顔をしている。
今の笑い声は、遠くに固まっている女の子たちのものだ。
どうしよう。これってこの体勢、かなり怪しいよなあ。うっかり頭撫でたりしなくてよかった。覗き込んでチュウしなくてよかった。
オレとしては、オレ達ラブラブです!邪魔しないで!って大声で言っちゃってもいいくらいなんだけど。
泉はそういうの極端に嫌がるし、オレの腕にちょこんと収まる泉のかわいい姿をただで見せるのも惜しい。
それにしても、泉が黙ってるのが不思議だ。そう思ってちらりと見ると、泉は漫画に夢中で、周りの状況には全く気づいていないようだった。
普段はあんなに人目を気にするくせに、たまに間抜けなんだよなあ。そういうところもかわいいけど。

さて、この状況をどうしよう。
オレが無い頭を悩ませていると、なにやらドタバタと賑やかな音が聞こえてきた。
「おー、こんなとこで何してんの?」
「ハマちゃん」
田島と三橋だ。
「泉の持ってるの今週号?オレも見たい!」
さすが、この不自然な体勢を全く気にしていない。わらわらと寄ってきて、田島はオレの背中にのしかかり、三橋は左側から覗きこんだ。
「うおっ重いって田島!」
「いいじゃん気にすんなよ」
「するっつの」
「泉君、もちょっと、まって」
「ん」
さらにおかしな体勢となったオレたちに、周囲から笑いが漏れる。「子供ねー」なんて言わないでくれ、田島と一緒にされるのは不本意だ。
「あっ泉、いつのまにそんなとこまで!さっきのに戻れよ」
騒いでる間にページは進み、さっきまで読んでいた漫画とは違うものになっていた。
「後で読みなおせば?」
「誰のだよ」
「浜田がオレに買ってきたマガジンだろ」
「いや違うから」
「泉ー、ページめくってー」
「はいよ」
「聞けよ!」
文句を言っても、誰も聞きやしない。

でもまあ、田島と三橋のおかげで難を切りぬけたようなものだし。
あいかわらず泉はオレにだっこされてるし。
学校でこんなことできるなんて、滅多に無いし。
寛大なオレは子供たちがわあわあ言いながら雑誌をめくるのを、微笑ましく見守ることにした。

2006/01/14
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