ロックNo.1129



軽快な音とともにフラッシュが光る。
泉は驚いて、それからオレを睨んだ。
「テメエ何やってんだよ」
「や、今の顔かわいかったから」
「はあ?」
携帯を取り上げられる前に保存した。
ぽけっとした泉なんて珍しいから、後で堪能しよう。

「……帰る」
いつまでもニヤニヤしていたのがまずかったらしい、機嫌を損ねた泉が仏頂面で部屋を出ていこうとするのを慌てて引き留める。
「え、ちょっ……泉待てよ」
「一人で携帯いじってればいいだろ」
泉は冷たく言って、伸ばした腕を振り払った。
ここで帰すわけにはいかなくて、オレは必死で言い募る。
「違うって、明日まで会えないだろ、だから写真欲しいの」
「何それ」
後何時間後かには同じ教室にいるだろ、と泉は眉を顰めた。
隣にいる泉を放っておくつもりじゃない。せっかく二人でいるのにそんな勿体無いことはしない。
「だって泉今日は帰っちゃうだろ」
「帰るよ」
「寂しいじゃんか」
自分の部屋だというのにどこか物足りない。泉が帰った後は、必ずそんな気持ちになる。写真の一枚でもあれば、それを眺めて眠りに着くことが出来る。だから写真が欲しい。
それからもうひとつ。
「去年はあんまり一緒にいられなかったから、オレ去年の泉知らないんだよ。すげえ悔しいから、今年は欲しいの。そんで会えない間は写真見て我慢するし、あとお守りにしたいから」
いつも持ってる携帯に泉の写真があったら、すごく安心するし嬉しい。

「な……何言ってんの」
はじめむっつりしていた泉はだんだん赤くなって、しまいには俯いてしまった。
「誰かに見られたらどうすんだよ」
「大丈夫だって、ちゃんとロックかけてるから。な、泉一緒に撮ろ」
「……やだ」
「やじゃない、はいこっち向いてー」
「やだって言ってんだろ」
けれどもオレは強引に泉の肩を引き寄せて、携帯を持つ手を伸ばした。
画面に映る泉は相変わらず俯いたまま、そっぽを向いている。
「撮るよー」
オレは泉のつやつやな髪にちゅっとキスをした。



泉を家に送り届けてしまうと、後は寝るだけだ。携帯の大事なフォルダを開く。
そこにはほんのり頬を染めた泉と締まりのない顔をしたオレが、頬をくっつけて寄り添っていた。

2006/04/04
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