かわいい子にはチュウ!



「浜田ー、これどこに置くんだって?」
「机の上でいいって言ってた」
貴重な昼休み、運悪く教師に捕まった浜田は「これ、準備室に持って行って」と大量のノートを持たされた。
たまたま一緒にいたオレも、仕方なく半分持ってやることにして、現在科学準備室の狭い室内にいる。

「寝る時間減った……」
「ここで寝ちゃえば?あそこのソファ借りて」
「んー、そうすっかなあ。浜田は?」
「じゃあ枕になってあげようか」
「……まあいいけど……」
なんて言いながら、ソファの座り心地を確かめていたら、突然ガラリと扉が開いた。
「発見ー!」
「田島?」
膝枕後じゃなくて良かった! と心臓をバクバクさせていると、田島が近づいてきて、じーっとオレを見る。見る、見る。ひたすら見る。

「何だよ」
「んー……」
「どーしたあ?」
なんだか居心地が悪い。もそもそと座りなおしていると、また田島が「うーん」と言って、
「わっ! な、なんだよ!」
いきなり頬にチュウしやがった!

「なんだっつーの」
そのままぺっとり張り付いてきた田島をぐいぐいと押しのける。
何がしたいんだ、こいつは。とりあえず、本気じゃない事は確かなんだけど。
「だってうちのねーちゃんがさあ」
「はあ?」
「1歳の子がいるんだけど、そいつにいつも『かわいい子にはチュウしちゃうぞー!』ってチュウしてるから」
「……だから?」
「何か泉かわいかったから!」
「はあ?」
何だそれ。田島にそういうことを言われるとは思わなかった、っていうかどこがかわいいっつうんだよ。
「んー、よくわかんねえけどいつもと違う。もっかいしていい?」
「えー……」
イヤだ、と言うより前にされてしまった。

「そんじゃあとでなー!」
満足したのか、身軽な足取りで部屋を出て行く。
と思ったら、また顔を覗かせて、
「いつもよりほわーんてしてた! すげー安心してんの!」
言い終わると同時に頭が引っ込んだ。……あいつ、何しに来たんだよ。

「何だあれ……」
妙な疲労感が押し寄せてきた。ずるりとソファに凭れて、浜田を見る。
何かさっきから、一言も発してないような。
「浜田、何その顔」
「……え、え?何って?」
「何って……」
変な顔。固まってるっていうか、緊張してるっていうか、えーと、強張ってる、っていうんだっけ?
浜田は取り繕うように自分の頬を撫でさすりながら、視線を逸らせてしまった。

あれ、もしかして。
「浜田、枕してくれるんじゃねえの」
「あ、うん」
浜田の硬い膝にぽすんと頭を乗せる。硬いし高さも全然合わないし寝心地は最悪、でも暖かい。浜田はまだ変な顔してたけど、無視して目を閉じた。
田島の言ってた事は本当なんだろうか。そんなに顔、違うんだろうか。良く考えたらっていうか考えなくても、すんごい恥ずかしいような気がするんだけど。

しばらくしたら、浜田がそっと頭を撫でて来た。ちょっとくすぐったいけど、浜田の手は気持ちいい。
目を閉じたまま、
「嫉妬すんなよ、ばーか」
って言ったら、軽く髪を引っ張られた。


2006/10/4
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