birthday cake



レポートに使う資料を探しに来た図書室は、普段よりたくさんの他人で賑わっている。
7組は来週提出だけど、たしか9組は今週末だって言っていた。
「ちよ、あそこにいるの団長さんじゃない?」
肩を突付かれて見てみれば、窓際の閲覧席に浜田さんの姿があった。
実は、浜田さんとはまだあんまり親しく喋った事がない。夏前に比べたら随分話すようになったけど、それでも皆みたいに気軽に話しかけられなくて、廊下であっても会釈だけとか、そんな感じ。
陽気で気さくな人だし、すごく優しいって知ってるんだけど、ふとした表情がやっぱり大人っぽくて、ちょっと緊張してしまうのだ。

机の上に置いた何冊かの本を順番に開いて、真剣な顔でページを捲っている。
やっぱり声は掛けにくいな、と思いながらふと視界に入った色鮮やかな写真に視線を下げると、
「ケーキ?」
「あれ、しのーかだ」
浜田さんが顔を上げてにっこり笑った。
人好きのするその顔に、思わず問いかけてしまう。
「ケーキ、作るんですか?」
「うんそう。泉の誕生日にね、毎年焼いてるから」
今年は何にしようかと思って、と本を示す。
小さい頃からの知り合いだと言う泉君と浜田さんは、本当に仲が良い。
親しい先輩はいるけれど、年の違う友達は自分にはいないから、羨ましいな、っていつも思う。だって二人はいつも一緒にじゃれてて、見てるこっちまで楽しくなる。
それにしてもケーキとは。
女同士だったらプレゼント交換とかするけど、男の子でこういうのは珍しいんじゃないだろうか。しかも手作りケーキ!
でも昔からの習慣が続いてるのって、なんかいい感じだ。
「ブッシュドノエルじゃクリスマスだよな〜」
「去年は何にしたんですか?」
「去年はチョコレートのやつ。フォレノワールだっけ、あれにちょっと飾りつけした」
「おいしそー」
っていうか、そんなの作れちゃうんだ……。すっごい器用。
「焼き菓子好きだから、そっちでも良いかとも思うんだけど」
「でも誕生日のケーキって言ったらデコレーションって感じしますよね」
「だよね、生クリームいっぱいでフルーツが載ってるやつとかねえ」
何が良いかなあ、泉に決めさせるかなあ、と浜田さんが首を捻る。

「ちーよー、先行ってるからね」
「あ、ごめーん」
一緒になって唸ってたら、さっさと用事を済ませた友達が入口声を掛けてきた。
「引き止めてごめんな、しのーか」
「私こそ邪魔しちゃってごめんなさい。いいの選んでくださいね!」
慌てて浜田さんに手を振って、適当に書架から本を抜き出して、中見てないけどまあいいやってカウンターで手続きを済ませて、タイトル見たらいかにも資料に使えなさそう。
何やってるんだか、って思いながらもう一度書架を見渡しても、既に目ぼしい物は借りられた後だった。
これはもう、後で誰かから回してもらうしかない。
花井君辺りはもう清書に入ってそうだから、教室戻って聞いてみることにしよう。

腕時計を見たら昼休みは残り10分。
浜田さん、ケーキ決まったかな。そう思って振り返ったら、いつのまにか来ていたらしい田島君と三橋君が、浜田さんの近くで机に突っ伏していた。図書室の机は広いから、教室よりも寝心地が良さそうだ。
泉君は浜田さんの隣に座って、一緒に本を見ている。
野球部は皆仲が良いけれど、中でも9組の3人は大抵固まっていて、浜田さんを交えて4人でいることが多い。今も資料を探しに来たというよりは、浜田さんを探しに来て、いたからここで昼寝するか、って感じだ。レポートの存在とか、忘れてるんじゃないだろうか。
締め切り間際の騒動が想像できるけど、ほのぼのとした光景に思わず頬が緩んでしまう。

それにしても。
嬉々としてページを捲りながらあれこれ言う泉君と、それをうんうんと頷きながら聞いてる浜田さん。
ジュエリーショップで指輪なんか選んでる人達みたい。
クリスマス前とか、良く見かけるよね。




sleeping beauty
2006/11/29
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