special ticket



「あれー、いっこ何も書いてないけど」
昼間クラスの何人かで渡してやった浜田の誕生日プレゼント。小学生かよ、って感じのもんだけど、浜田は笑って「ありがとー、そんじゃあ早速使わせて」なんてにこにこしていた。
夜、家に帰ってそれを鞄から取り出した浜田は、オレがやった肩たたき券を広げてみせた。10枚綴りの紙の一番下が空白になっている。
「あー、書き忘れた」
「え、これもしかして何書いてもいいよっていう」
「書き忘れたっつってんだろ」
どうせ何でも言う事聞くとかそんな禄でもないこと考えてんだろう。
まあ、今まで何もあげたことなかったし、これも本当にどうしようもないもんだから、ちょっとは譲歩してやってもいいんだけど。
でも。
「つうかさあ、おまえ何か欲しいもんあんの」
「ん? 貰っただろ、これ」
「そうじゃなくて。ちゃんとしたもの。そりゃオレ金ないし自分で稼いでないし」
結局何か買うとしても、小遣いから出すしかない。きちんと自活している浜田からしてみれば、甘ったれとしか思えないだろう。
オレだって浜田みたいに、ささっと好きな物作ってやったりしたいけどそれもできない。オレにしてくれるみたいに喜ばせたいのに何にも出来ない。
何かあげられるものがあるなら、なんでもあげたいっつの。
……これがプレゼントを渡さない理由。あー器が小せえなあ、オレ。

そんな風にぐるぐる思ってたら、うっかり本音が出てしまった。
「おまえがどうして欲しいのかとか、本当にわかんねんだけど。全然。オレが何したら喜ぶの。どうしたら喜んでくれんの」
あ、と気付いて慌てて口を押さえたけど、勿論浜田にはちゃんと聞こえていて、ぽかんとした顔の奴と目が合ってしまう。
恥ずかしさで布団に逃げ込みたいところだけど、そうするのも負けたみたいで悔しくて、顔を逸らしたら頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「泉がオレの傍にいてくれることじゃね、やっぱり」
「……」
「そんでいつも機嫌よくしててくれれば、それが一番嬉しい」
ぽんぽんと軽く頭を叩いて、すっと離れていく浜田。
オレがこういう時、顔を見られるのを凄く嫌がるのを知っているから。
ちょっとだけ視線を動かすと、床にあぐらをかいて洗濯物を畳み始める浜田の背中が目に入る。広い背中。

「うおっ! ちょ、泉、おも、重いって!」
そりゃそうだ。どかんと思い切り圧し掛かって、全体重を浜田にかけてるんだから。
さらに身体を前に倒して、後ろから浜田の顔を覗き込むようにする。
「いーずみー。重いよ、くっついてくれんのは嬉しいけど、どうせなら前来いよ。抱っこさせて」
「やだ」
「もー」
なんて言いながら、浜田の顔は全く怒ってない。
衝動のまま、肉の削げた頬に唇を押し当てた。
「……」
「なに間抜け面してんだよ」
可笑しくなって笑ってしまった。
すると浜田も笑って、洗濯物を畳んでいた手をオレの頭に回して、ぐいと力を込めた。
ちゅ、と軽く音を立てて唇が重なる。
「へへ」
浜田の嬉しそうな顔。

少しはオレも、おまえを幸せにできた?

2007/01/03
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