昼休み



昼休み、珍しく途中で目が覚めて、泉と浜田がいないのに気付いた。
いつもなら気にせずまた机に突っ伏すんだけど、今日はあまりにも天気が良くて風が涼しいもんだから、思わず中庭に向かってしまった。
貴重な睡眠時間が減るのはもったいないけどさ、でも外って気持ちいいだろ?
中庭の奥の方、渡り廊下の向こうに良い感じの昼寝場所があるのを知ってる。浜田が教えてくれたんだけどさ。

蒸し暑い校舎を抜けて中庭に出たら思った通り涼しい風が吹いてきて、何となく得した気分になりながら角を曲がる。
そしたら、見覚えのある人影が。薄い茶色の髪、大きな背中。浜田だ。なんだ、あいつもここ来てたのか。
名前を呼ぼうとして口を思い切り開けて、そのまま止まる。
……なんか揺れてね?
うん、揺れてる。
右に、左に、ゆったりとした調子で体を揺する浜田は、背中しか見えないけど楽しそうだ。
なにしてんだろうなあ。うしろからそっと近づいてみることにした。
ひょいと覗き込んで、あ、大声出さないでよかった、って思う。
後ろからは全然見えなかったけど、浜田の足の間には泉がちんまり収まっていて、うとうとしてる。でっかい目をとろんとさせて、浜田が体を揺するリズムに添うように瞼が閉じたり開いたり。
気持ちよさそー。
「浜田ー」
「お、田島も来たか。ミハシは?」
「教室で爆睡」
浜田達のとなりにごろんと転がる。
「泉寝てんの?起きてんの?」
「どーかなー、泉ー?」
浜田が泉の腹の前で緩く組んでいた手をほどいて、顎の下をくすぐる。
「んー…」
普段の泉にはありえないポケーとした声が漏れた。
浜田と二人で笑って、投げ出された泉の足に頭を乗せる。
「予鈴鳴ったら起こしてー」
「はいよ。あ、田島、日直じゃなかったっけ、って……おーい」
浜田の返事を聞き終わらないうちに寝てしまった。

「やっべー!」
5限の物理、そうえば機材運ぶの手伝えとかなんとか言われてたんだって思い出して、二人より先に慌てて校舎に戻る。途中、走るなよー、って言われたけど見知らぬ先生より既に課題忘れで何度か怒られてる物理の先生の方が怖いから、はーい、って適当に返事してスピードを上げた。
ギリギリで間に合って、呆れ顔の先生から重い実験道具を半分渡されて、教室に入ったらサッカー部のヤツに手招きで呼ばれた。
「なあ田島ー、ちょっといい?」
「んあ?」
「あのさー、浜田なんだけどさー、あいつ大丈夫? さっき中庭で見掛けたんだけど、なんか一人でゆーらゆーら揺れててさあ。ヤバくね? バイトと援団で忙し過ぎてキちゃってんじゃねえの? おまえ何か聞いてない?」
「へ?」
思わずパチパチ瞬きして、ああそういえば泉すっぽり隠れちゃってたなー、やっぱ泉もちっせーよな、オレも早く浜田みたくでかくなりてえなあ、ってしみじみ思う。
「田島ー? おーい」
「あ、へーきへーき!泉抱っこしてた!」
「…へ、へーえ…」
「あれ気持ち良さそうだったなー、今度やってもらおー!」
教卓にドサッと機材を置いて任務完了。
「あれ? 何その顔」
オレ、変なこと言った?

2007/07/09
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