cheer! 1



中学の頃、同じクラスの奴が彼女の服にやたらと口を出していた。
「だってせっかくの彼女なんだし、いろんな可愛い格好見たいだろ」
そんなものかな、と思っていたけど。

オレが悪かった。実はマニアだなーなんてちょっと引いてたよ、ごめん。
今ならわかるよ、すげー分かる!
彼女の可愛い格好が見たい、その通りです!
いや彼女じゃないけど。彼氏なんだけど。
あー泉可愛いなー、こんな格好も似合っちゃうんだー。

「何ニヤニヤしてやがる」
「え?してないしてない」
「してるだろ。気持ち悪い顔しやがって」
「気持ち悪いって…あ、ちょっと泉動くなよ、危ねぇなあ」
オレは針を持つ手を慌てて引っ込めた。危うくわき腹に突き刺すところだった、針使ってるんだからじっとしててくれ。
「このくらいでどうよ?」
「んー、もちっとかなー」
「腰ほっせぇなあ」
「ちげぇよ!渡されたのがやたらでかかったの!」
「はいはい」
女子は平均的高1男子のサイズで作ってくれたんだけどね。
「…んだよ」
「なんでもないってー。ちゃんと直さないと後で困るだろ、ちょっと動いてみて」
「おう」
背伸びした拍子に脇がちらりと覗く。日に当たらない肌は白くて、何度となく見たことがあるというのにどきどきする。夜見るはずのものを日の下で見るからだろうか、妙になまめかしい。
「もうちょっとか?」
準備運動みたいに腰を捻る度にするすると動くから、あと少し詰めた方がいいかもしれない。
マチ針で印を付けてから脱がせる。
「わりぃな、面倒な事やらせて」
「いーや全然構わねえよ。ちょっと待ってな」
「ん」
本当、面倒なんてとんでもない。脱がせたり着せたり具合見るために触ったり、他の奴になんかやらせてたまるかよ。
ああ裁縫できて良かった!

細かい直しを終えて渡せば、泉は素直にそれを着た。何度見ても可愛いなあ!
「あー種目選び間違ったな…」
泉は半ば諦めたように呟いた。
午後にある応援合戦は、先生方の票で得点が入るとあってかなり力が入っている。7,8,9の合同組では男は学ランでむさ苦し…猛々しく、女はチアで華やかに、と決まったのだが。
人数調整を誤ってチアの人数が足りなくなり、男どもが回される羽目になったのだった。
足りないなら新たに募集すればいいものを、それはそれでおもしろいかと特に反対意見は出なかったらしい。まあ最高学年の団長に睨まれたら嫌だなんて言えないけどな。
「チアに回される奴ってどれくらいいんの?」
「20人くらいかなー」
「結構いんね」
「うん、だからまあいいんだけど、薄気味悪いぜー男がポンポン持ってミニスカはいて踊ってんの」
その光景を思い出したらしい、げっそりした顔をする。確かにおぞましい眺めだろうなあ。泉以外は!
「まあ、男どもなんて視界に入れなきゃいいよな」
「や、無理だって。ほどよく混じってんだもん。キレーな脚が見えた!と思ったらすぐ脇からきたねぇ脚がにょきっと邪魔すんぜ」
「……えー……」
それは萎える。

「あーでも楽しみだな!体育祭燃えるよな!」
「な!」
とくにうちのクラスはお祭り好きが多くて、何週間か前の種目決めの時からもう大騒ぎだ。
「リレーぜってぇ負けたくねー」
「頑張れよな」
泉は応援合戦後の1000mリレーにエントリーしている。知らないだろうけど、競技間は結構短いから着替える時間はない。つまり、泉はチアの格好のまま走るはず。きっと誰よりも可愛くて格好いいに違いない。
「な、明後日弁当つくろっか?泉の好きなの作るよ、茄子のはさみ揚げとか」
「まじで?から揚げも?オニギリたらこ?」
「うん」
「やった!」
泉ははしゃいで床に転がった赤いポンポンを取り、頭上で振った。それからポンポンに顔を埋めて、「楽しみー、楽しみー」なんて言っている。
やっばい、可愛すぎだろ。

「ああ心配だなー、そんなに可愛くて狙われたらどうすんの」
「はあ?何言ってんだ、男のスカート姿見て喜ぶ変態はオメーくらいだ」
「んなことねーよ、文句なしに可愛いもん」
いつもなら殴られるか蹴られるかするような事を言っても、泉は笑ったままだ。
所詮泉もお祭り好き。 チアにまわされた当初は仏頂面だったけど、「ま、しょうがねえ」と男らしく割り切って真面目に練習に励み、当日を楽しみにしてるのだ。



人数配分ミスった間抜けな委員ありがとう!
泉にはずれを引かせたくじ引きの神様ありがとう!
明後日は可愛い格好で踊る泉が拝めます!

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2005/10/08
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