birthday ticket




「浜田さんの誕生日、何あげたの?」
そう聞いたら泉君は、
「何も」
なんて言う。
「ケーキ作ってもらったのに?」
「何でしのーか知ってんの」
「うん、たまたまだけど。で、何もあげないの?」
いつもお世話になってるのに、と首をかしげる。泉君、あんなに浜田さんと仲いいのにな。
「……ケーキは浜田が勝手に作ってくんだよ。つうかオレあいつに何かあげたことないし」
さすがにちょっとは後ろめたいのか、泉君はいつもより早口で言いながら鞄を漁った。
皆で回し読みしてる野球雑誌、今月は泉君の次が私なんだ。
「えー。まあバイトする時間もないからちゃんとしたものは無理だけど。でもさあ、いつもありがとうって、気持ちだけでも」
購買のパンだって、パックのジュースだって、おめでとうって渡せば喜んでくれると思うのにな。そう思っていたら、泉君くんは顔を顰めて、
「いいって面倒くせえ」
なんて言う。
「何言ってんのよー。おめでとうくらいは言ったでしょ?」
「んー、まあ……。いつもありがとう、ねえ……あー、勤労感謝の日とか敬老の日みたいなもんか」
「え」
それはどうかな。
ちょっと違うような気がするんだけど。
なんて思ってる隙に、泉君はくるりと後ろを向いて、田島君を呼んだ。
「田島ー、おまえじいちゃんたちに勤労感謝の日って何かしてる?」
「キンロウカンシャノヒ?」
「おじいちゃんいつもありがとー、赤いちゃんちゃんこでもとかそういう」
「ああ、オレ毎年肩たたき券!」
「あ、それいいな」
えええ。
色々混じってるし!
「ちょ、ちょっと待って、浜田さんの誕生日だよ? おじいちゃんじゃなく!」
慌てて割って入ったけど、既に泉君はノートを破って折り目をつけ始めている。
「浜田? そういやこの前、あいつ誕生日だったんだっけ」
「うんそう」
田島君が私に聞いて、それじゃあオレもーなんて言いはじめた。
「そんじゃオレはー、購買パシリ券! どうよ」
「お、いいんじゃね? つかオレもそれ欲しい」
「だめー、来年な」
「何々、何の話?」
いつのまにか数人が寄って来て、ついでにオレも、じゃあ私も、なんて皆が即席チケットを作り出した。
毎日激戦が繰り広げられる購買も、田島君なら難なく欲しいものが買えるだろう。
わりと便利かもしれない。
ていうかごめんなさい浜田さん、私には9組のノリについていけませんでした。


で、どうなったかというと。
あれからすぐに教室に戻ってきた浜田さんは皆の各種何とか券に大爆笑で、さっそくお昼ごはんを田島君に買いに行って貰って、出遅れた三橋君があわあわと紙に書くのをにこにこ眺めている。
「遅刻誤魔化します券」なんてのもあって、まあ実用的というかなんというか。
肝心の泉君はといえば、「凝りすぎ」なんて文句を言いながら、浜田さんの肩を解し中。浜田さん、バイトやら応援用の裁縫やらで、大分コチコチになってたみたい。
一生懸命肩を揉んでる泉君は時々だるくなった手を開いたり閉じたりして、それでもまだ続けてて、浜田さんが「もういいよ」って言うのに聞いてない。

可愛いなあ。
微妙なズレがあるような気がしないでもないんだけど。
こっそり笑いながら教室を後にした。



special ticket
2007/01/03
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